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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

迷い込んだ小さな果実

※ レズ的な絡みがあります。ご注意を。

   『迷い込んだ小さな果実』

















 一昨日は雨の日。昨日は曇り。そして今日は晴れの日。
 いつもは蝦蟇蛙を凍らせたり、仕返しされたり。ルーミアちゃんや大妖精のところへ遊びにいく。あたしは氷精チルノ。
 木の実をおやつに、今日は少し気分転換と思って遠くまで散歩に出かけた。いいお天気。

 その道中、お昼寝しているリグルちゃんを見かけた。でも声をかけずに、眩しいほど明るい向日葵畑に向かって飛んでいった。起こすのは悪いと思ったから。
 蜜の匂いに誘われるように、ただお花畑を目指して。
 そこら中に花の妖精がいたので挨拶替わりに氷の塊を投げつけてみると、妖精達は逃げ惑うことに精一杯。いい気味だった。
 そんなとき、遠くから誰かが姿を現した。
 可愛らしい日傘を差して、ワンピースを着込んだ女の人のようである。笑顔がとても眩しい。何がそんなに嬉しいのか、不思議。
「あら。この辺じゃあ、見かけない妖精ね」
「何さ、あたしの邪魔するって言うの?」
「邪魔? 私の大切なこの畑を、無茶苦茶にしてくれてよく言うわね」
 その眩しい笑顔が怖いものへと変貌していく。思った。この人は人間ではない。もっと強い力のある、妖怪だと。
 だからあたしの前にこうして堂々と姿を現した。あたしの弾幕を見ていながら。
「そこの冷たい蝶々さん。ただでは帰さないわよ」
「ふん、痛い目見るのはそっちよ!」
 握りこぶしに力を込めて、振り回す。無数のつららが現れ、女の人もとい妖怪へ飛んでいく。
 してやった、と思った。目の前の妖怪が日傘でつららを防ぐ様を見せ付けられるまでは。
「その程度なの? やっぱり、妖精の力なんて大したことのないのね」
「ま、まだまだこれからよー!」
 つららだけでなく、丸い粒や大きな氷の塊を織り交ぜてばら撒く。それでも妖怪は避けることさえせず、日傘を盾にして直立しているだけ。
 妖怪に怪我はない。負わせることができない。
「な、何よそれー! 反則じゃないのー!」
「この傘を破れない火力しかないくせに、ただの遠吠えね。じゃあこちらの番かしら」
 花の模様を描いた弾幕が迫ってくる。避けられそうな隙間は殆どなく、闇雲に飛び回ってみるも被弾する。
「ほらほら、もっと飛び回りなさい! そんな動きじゃ、私の弾幕からは逃げられないわよ!」
 自分が放つものとは密度が違った。悔しいが、とても回避しきれる自信がなかった。
 羽が破け、手足に当たり、飛ぶ力を失う。地面に墜落して、意識が遠のいていった。
 最後に聞こえたのは、花妖怪の高笑い。


 気がつく。誰かの家の一室で横になっていた。
 先ほどの妖怪に連れて行かれたのだろうか。食べられなくて良かったと思った。
 慌てて、服の中を探るように手で体中を叩いた。おやつの木の実を落としてしまったようだ。少し残念。
 背中の羽は酷く痛んでいる。直に怪我の治る妖精の体と言っても、すぐには無理だ。飛んでここから逃げるなんてできない。
 ドアが開いた。先ほどの花妖怪が不気味な微笑みを浮かべて現れた。
「気分はどう? 負け犬さん」
「う、うるさいわね! 次やれば負けないんだから!」
「その体でよく強がりが言えるのね。その根性だけは認めてあげる」
 花妖怪があたしの顔を覗き込んだ。その微笑みの瞳の奥に怖いものを見た。
 嬉しくて笑っているのではなく、弱い奴めと嘲笑うような。
 思わず、妖怪の顔を押しのけた。そんな目で見て欲しくないから。怖いから。
「ふふ、ふふ。どうしてそんなに怯えるの……? 私は風見幽香。あなたは?」
「……チルノ」
「そう、チルノちゃんね。かわいい名前じゃない」
 幽香と名乗った花妖怪は今傘を持っていない。今力を振り絞って飛び道具でも当てれば気絶ぐらいはしてくれるかもしれない。
「無駄よ。先に言っとくけど、あなた程度の力じゃどう足掻こうが私に傷をつけることさえ出来ない」
「な、何言ってるのよ……。傘のないあんたぐらい、どうってことないわ!」
「じゃあ試してみれば? 氷の妖精さん」
「……」
 自信たっぷりの幽香に腹が立つ。この状況ならあたしが絶対有利なはずなのに。
「ほらぁ、早くしなさいよ。焦らさないで……。それとも、できないの?」
 カチン。頭の中で何かスイッチが入った。
 叫んだ。何でもいい。力を振り絞って弾幕を放つ。
 この狭い室内。幽香にこれを防ぐ手段はない。勝ったと確信した。
「だめだめ、そんな隙間だらけじゃかわし甲斐がないじゃない」
 彼女には当たらない。掠りもしない。掻い潜られて、幽香の手があたしの首を掴む。
「でも、よくがんばった方よ。そんなに暴れて、ね」
「は、放せ! 放しな……さいよ!」
 首を絞めるつもりまではないのか、苦しくはない。でも怖い。この妖怪に捕まったという事実が。
「ねえチルノちゃん。スペルカードバトルにおいて、負けた方は勝った方のいいなりにならなければいけないの。知ってるわよね?」
「……な、何をするつもりなのさ」
「訊かなくてもわかるでしょう? そのないに等しい脳味噌で」
 幽香にベッドへ投げ飛ばされた。その幽香があたしの上に乗っかる。
「私があなたを食べるの。お腹が空いているから。弱肉強食の法則に則って」
「い、いやぁ!」
 幽香が無理やりあたしの唇を奪ってくる。されるがままは嫌なので自分の体温を下げてやった。きっと離れていくに違いない。
 しかし下げられない。幽香が容赦なく純潔を奪っていく。
 先ほど弾幕を飛ばしたので力が出ないのだろうか。冷気を操る能力に一時的であれ、限界が来たのか。わからない。
「ほらほら、もっと抵抗して頂戴。折角あなたを攫ったんだから、もっと楽しませてもらわないと」
「た、食べるって言うなら……さっさとすればいいでしょう!」
「食べる? そうね、こんなに可愛い妖精が迷い込んできてくれたんだから、たくさん味合わせて、食さないとね。色々な意味で」
 幽香が再度口付けを迫る。逃げようにも、妖怪さながらの怪力で逃げることは許されない。
「い、いや……殺さないで……」
「殺す? そんな血なまぐさいことしないわ。そう、チルノちゃんを気持ちよくしてあげるの」
 キスを迫られ、舌が口の中へ入ってきた。嫌がって押し出そうとこちらも舌で応戦するも、向こうの巧みな舌使いに負ける。
 口の中の色んなところへ、幽香の舌が触れていく。歯茎、前の歯から奥の歯まで。上の歯から下の歯まで。舌の根元にも幽香の舌が攻めてくる。
 ようやく口が離れる。動悸は激しく、息が上手くできない。どうしたんだろう、と自分が不思議だった。
 嫌なのに。こんなことされて嬉しくも何ともないのに、胸がドキドキしてよくわからない気持ち。
 幽香の口が離れていく。妙な気分だった。もう少し、口付けしていて欲しかったと思う。
「あら、氷の妖精なのに随分体が温まってるじゃない。そんなに私のキスが美味しかった?」
「え、な!? そ、そんなのじゃないわよ! これだけ良い様にされて、悔しいに決まってるじゃない!」
 強がりはするが、幽香の言うとおりだった。自分の体が今まで感じてきたことがないほどに熱い。
 火で炙られているわけではないのに。光線で焼かれているわけではないのに。
 まるで体の奥がむず痒い感じ。芯が焦がされている様なもの。
 体に力が入らない。もう一度逃げようと抗ってみるも、今度はそんな気さえ起こせない。
 幽香に唇を奪われ、口の中を好き勝手に舌でめちゃくちゃにされたせいなのだろうか。わからない。
「逃げてもいいのよ? ただし、逃げられるのなら……ね」
「はぁっ……はぁ……」
「もう息が上がったの? 違うわよね、まだまだ遊ばせてもらわないと」
「も、もう嫌ぁ……。家に帰してよ……」
「駄目、全然満足してないんだから。ルールはルールよ、言うことは聞きなさい」
 彼女がねめつける。恐怖に体がすくんで、震え始めた。
 その間にも、幽香の攻めは続く。
そうだ。今こうしていじめられている間に妖怪の頭の上に氷の塊を落としてみたらどうだろう。
 思いついてから、今自分の力が使えないことを思い出す。どうしようもないではないかと、絶望した。
「でもまあ、そこらの妖精にしてはあなたはよくがんばった。だからあなたは、徹底的に可愛がってあげる」
「ひっ! そ、そんなの……頼んでない!」
「口ではそういうけど、体はどうなのかしらね?」
 幽香があたしの耳たぶに口付けした。とても優しく、ソフトに。
「ひゃんっ!」
 ただそれだけなのに体がびくりと、雷に当たった様な衝撃が来た。
「こうされるのが好きなのね?」
「ち、違うわよ! びび、びっくりして、気持ち悪いから声が出たのよ!」
「あらそう? じゃあこういうのはどうかしら」
 今度は耳へ舌を押し付けてきた。またしてもむず痒い感覚を覚える。
「ふふふ、可愛いじゃない……チルノちゃん」
 羽にまで手を伸ばされた。撫でられただけなのに、またしても声が出てしまう。
「あ、あうぅ……ど、どうして……。へ、変な声が出ちゃう……」
「いやらしい妖精さんね。艶な音色で鳴いちゃうなんて」
「あ、あんたが色んなところ触って……あんたの方がいやらしいじゃないの! 変態! 不潔!」
「この私を罵るっていうの? いい度胸ね、チルノちゃんは」
「度胸? 上等よ、あたしが最強なんだから! こんな風にされてなかったら、今頃氷付けにしてるんだから!」
「最強、ね。言葉の意味も知らなさそうなくせに、最強なんて自称するんじゃないわよ」
 首筋に歯をつき立てられた。吸血鬼が血を吸うみたいに。
 吸われるわけではないが、噛み付かれたようなその痛みは嫌がらせのようであった。またしても、喉の奥から反射的に喘ぎが漏れる。
「その最強であるチルノちゃんが、おもちゃみたいに弄ばれる気分はどうかしら?」
「はうぅ……さ、最低に決まってるじゃ……ない! くぅ……」
「ふふ。まだ、まだよ。もっとチルノちゃんのこと、弄らせてもらわないと」
 触手のように伸びてくるいやらしい手指と舌で体中のありとあらゆるところを侵され、犯された。
 どれだけの時間を幽香の虐待を受けることで過ごしたのか。
 窓の外から見える空は真っ暗であった。
「チルノ、チルノちゃん」
「……」
 気分が高鳴ると途中で放置されて落ち着く。するとまた彼女の苛めが始まる。
「ねえ、チルノちゃん。もう夜よ」
 だから、こうして呼ばれているのもその一環だと思って返事をしなかった。
「十分満足したから、そろそろ帰してあげようと思うんだけど泊まって行くの?」
 帰れる。反射的に、立ち上がった。幽香の顔を見ると、人もとい妖精を小ばかにしたようなものだった。
「本当に……帰っていいの?」
「ええ。私の気が変らない内にどこへなりと消えなさい」
 開いた窓から外へ飛び出した。視界は悪い。
 でもとにかく逃げないと。この妖怪から逃げないと。
 振り返ることなく、ただひたすらに夜の幻想郷を飛んだ。
 体のあちこちが幽香のよだれでべとべとだ。洗い流したいと思った。
 今はあの妖怪に体を熱くされたことなんて気にしたくない。気持ち良かったとしても、今は忘れたい悪夢のようなもの。
 早く。早く帰って、休みたい。もう二度とこんなところには来ないことにして、ずっと人間をいたずらすることにするんだ。
 その一心で、ただ飛び続けた。羽の傷はもうないから。


 朝焼け。明るくなって、ようやく自分がどこにいるのかわかった。一晩中飛び続けるも、結局湖に帰ることができなかったのである。
 帰ってすぐに湖へ飛び込んだ。これで体は綺麗さっぱり。そのまま、眠ることにした。
 目が覚めたときには、太陽が丁度頭の上に来る頃だった。
 湖の入り江に生えているたんぽぽを見て、花妖怪風見幽香と出合ってからのことを思いだす。
 頭に来た。仕返ししてやろうと思った。次は絶対に勝って、あたしが最強であることを思い知らせてやるんだと。
 同時に、体の火照りが恋しかった。
 どこかでは、確かに彼女の虐待を受け入れて楽しんでいたから。
 蝦蟇蛙を氷づけにしてやると、真っ直ぐ向日葵畑へ向かった。
「また来たの? よっぽどの阿呆なのかしら」
 こちらを見下す目つきで、日傘を差して佇んでいる。
「もう一度勝負しなさい! 今度こそは負けないんだから!」
 勝てばこちらの言うことを聞かせてやる。負ければ、文句を言わずに彼女の言うとおりにする。
 目的はただ一つ。そして彼女があたしを負かした場合にすることもそれとおそらく同じこと。
「いいわよ。ただし、チルノちゃんが負けた場合は……わかるわよね?」
「来ないならあたしから行くからね!」
 次に花妖怪に捕まったとき。あたしはいつ帰れるのだろうか。
 それは幽香の、気分次第。

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